Calling
Writer:EEE
Illust:早真さとる
太陽が昇る。どんな世界でも、また新しい一日の始まる合図がそれだ。
しかし、夏である以上、太陽が昇ったばかりの時間というのは早朝とも言いがたい時間であるのが当たり前である。
そんな時間に何故か目が覚めたタクマ・リュウサキは、日本の夏特有の蒸し暑さも手伝って再び寝付けず、仕方がなく外を散歩していた。
湿度は確かに高いが、不思議と朝の空気はどこか涼しく感じられて、家の中よりも外の方が気持ちよく眠れそうだな、などと考えてみたりする。そんなことを考えながら周囲を一周してきて家に入ろうとしたとき、タクマは何かを発見した。
ポストの中には、でたときには入っていなかった新聞と、何かの小包。あて先も差出人もかかれていないそれに、タクマは少し目を細めた。
「ふむ…」
小さく頷き、タクマはその場でその包みを開け始めた。さほど大きくはないその紙の包みを、丁寧に剥がしとっていく。そうすると、中からでてきたのは小さな箱だった。そしてその蓋を外すと、中からさらに透明で何かピンク色のようなものが入った小さな瓶と、何かが書かれた紙が入っていた。
その瓶を、今は高く上った太陽に向かって翳してみる。中に入った何かが太陽の光を弾き、小さく眩しく輝いた。
「これは…砂の星とかいうものだったか、確か」
改めて近くで見てみると、そのピンク色の細かい粒子は確かに星のように見えた。
それは分かったが、何故こんなものが自分のところに?
当然の疑問を抱くタクマは、もう一つ入っていたものを思い出し、それを手にとってみた。
なんでもない紙だった。そこに、何かが描かれている。
「…地図、か?」
特に文字が描かれているわけではないが、描かれた形は確かに何かを導くような形となっていて、なんとなく地図であると言うことが分かる。示す先は、形からして海だろうか。
それを見て、タクマは考える。一体これは何を指しているのだろう?
普段ならば、そんなものはただの悪戯だろうと無視を決め込むところだ。しかし、何故か今日はそれが気になった。
太陽に輝く星の砂とその地図が、どうしても気になってしまうのだ。
理由はよく分からない。だからこそ、余計にそれらが気になってしまう。
「……」
そこで一旦息を吐き、タクマは自宅を見上げた。まだまだ早朝、妻たちが起きてくる時間ではない。
「…よし」
そしてまたタクマは小さく頷き、一度それをポストに置いて物置へと歩き始めた。
「これでいいか」
車の中に荷物を載せ、ドアを静かに閉める。
やはり静かに運転席に乗り込み、エンジンに火をいれる。乾いたセルの回る音が静かな庭に響き渡った。
「…今度また、どこかに連れていってやるからな」
まだ眠っている妻たちを思いそんなことを呟きながら、タクマは静かに車を発進させた。
タクマは、一人でその海を探すことにしたのだ。本当に地図の通り海があるのなら、そこで日々の喧騒を忘れ静かに波を感じるのも悪くはない。
赤く灯る信号に、車を停車させてからあの紙を手に取る。そうして、一つ一つ道を確かめながら、タクマは車を走らせ続けた。何故か、途中で擦れ違う車や歩く人々の姿は見えなかった。
そして、一時間ほど走ったところで、確かに海はあった――。
○Memory of Sea
「…凄いな、これは…」
タクマは思わず呟く。今まで色々なものを見てきたが、こんな光景は初めてだった。
辿り着いた先には、二つの海があった。
とても不思議な光景だった。足元には何時も見ていた海が広がり、頭上には、静かに水面を揺らす海があった。空全体が海になったような、そんな感覚。
「明らかに今まで見てきたものとは違うな…」
彼とて、神魔というものを知っている以上、相当のことがない限り驚くことはない。ドラゴンを相手にしたこたことだってあるし、天使や神などというものも知っている。それでも、この後継には度肝を抜かれてしまったのだ。
先ほどまでは、普通の空が広がっていたはずだ。一体何処から空が海へと変わったのだろう?
水面を照らしている太陽は一体何処に上がっているのだろう?
自分の知っている汚れた海では決して見れない鯨がそこにはいて、見上げれば美しい青色の中を人魚が泳いでいる。あれは本物なのだろうか?
兎に角疑問は尽きない。見ているだけで、自分が今何処にいるのか分からなくなってくる。
しかし、不思議と胸は高鳴っていた。確かにおかしなところで、普通ならば逃げ出すような光景なのかもしれない。しかし、何故か今はここを調べてみたいと思った。
「…まぁ、偶にはいいよな」
誰も聞いていない言い訳を小さくもらして、タクマは車の中から荷物を下ろし始めた。
車を止めたところから少し歩けば、立派な砂浜が広がっていた。ゴミ一つないその白く輝く砂浜は、それが自分の知っている海でないということを教えてくれる。
「まるで沖縄か海外の綺麗な海だな…」
そこに荷物を降ろし、シートを敷いてどさっと座り込んでみた。手に取った粒子の細かい砂が、さらさらしていて気持ちいい。
そのままラジオのスイッチを入れてみる。電波は普通に入るのか、夏の軽快な音楽がノイズ混じりに流れ始めた。
そのままのんびりと、ただゆっくり時間が流れていく。
寝転んだまま頭上に見える海は、やはり静かに流れていた。水面が揺れ、そこに人魚が見える。ふと、その泳いでいた人魚の女性と目があって、タクマは小さく手を振ってみた。すると、その人魚も手を振り返してきた。
「ふむ…向こうからも見えてるわけか」
そんな当たり前のことを確認して、タクマは体を起こした。
立ち上がったタクマは、持ってきた荷物の中身を確認して、それを取り出し着始めようとして…少し周囲を見渡す。
「…誰も見てないからって、ここじゃ着替えは出来ないな。…いや、頭上から見てるか」
見上げれば、人魚が何をするのかと上から覗いていた。周囲には影になりそうなところもなく、仕方なくタクマは一旦車に戻って着替え始めた。
「これでよし、と
ウェットスーツに着替え、ゴーグルをつける。少し離れたところの岩場が丁度いい潜りのスポットのようで、タクマはそこから静かに海へと潜っていった。
(へぇ…)
潜ったそこは、ただ青く深く澄み渡っていた。こんな綺麗な海を見るのは一体何時振りだろうか。
魚たちは気持ち良さそうに舞い、穏やかな海流はただ気持ちのいい空間を与えてくれていた。
ただただ心地いい。音のない、ただ緩やかに過ぎていく時間。普段のあわただしい日々では絶対に味わえないその時間に、タクマはただ酔いしれた。
しばらくそのまま泳いでいたが、ウェットスーツ越しでは本来の水の冷たさを感じられず、一度タクマは陸へと上がる。上がった頃には、何処から射しているのか分からない太陽の光が強くなっているように感じられた。何度か顔を水面に出してはいたが、それでもっトータルでは結構な時間潜っていたらしい。
また車のところまで戻ってからウェットスーツを脱ぎさり、今度は海パン一枚の姿になる。
「やっぱりこっちの方が気持ちいいよな」
そして、また先ほどの岩場から静かに海へと入る。直に感じる海水はただ気持ちよくタクマを包んでくれた。
今度はそのまま潜らず、穏やかな水面にその身を預けてみた。
緩やかな風が吹くたびに、海面が小さく揺れ、それに伴ってタクマの体も小さく揺れる。
「海は全ての生命の母、か…」
風に揺れながら、そんな言葉を思い出す。それも今なら納得できるかもしれない。
ただこうやって揺れているだけで、タクマはこの上ないほどに安心できた。小さな頃に母親に感じた、あの感覚に似ている。
妻や娘たちと一緒にいるときに感じる安心感とは、また何処か違う感覚。それを感じられただけで、今日はきてよかったなと思える。
降り注ぐ太陽が気持ちいい。頭上に見える人魚も、そんなタクマを見て笑っていた。それを見て、タクマも小さく手を振る。彼女もそれを見て、小さく手を振り返した。
* * *
それからどれくらいの時間海面で揺れていたのかはタクマ自身よくは分からない。ただ、ふと一つのことを思い出した。それを思い出し、タクマは一度また陸へと戻っていった。
車に戻って、少し荷物を確認する。そこには、小さな瓶の中で輝く砂の星があった。
「コイツは一体何のために送られてきたのか…」
肝心なことを忘れていた。そもそも、この海は一体なんなのか。
普通に考えて、海が二つあるという時点で何かがおかしいのだ。
「…ふむ」
考えてから行動に移るまで、殆ど時間はいらなかった。
砂浜を横切り、先に続いていく岩場を歩いていく。特に何かおかしなところはない。
次に、車に戻って、その車で少し海から離れてみることにした。すると、おかしなことが起こった。
きたはずの道を戻っているのに、一行に海から出られないのだ。ある程度走ると見たような光景が広がり、それでもかまわず走り続けても同じようなことがずっと続く。まるで、昔やったゲームのように無限回廊が続いているかのごとく。
どうもでられそうもないので、ガソリンが切れてしまっては困るとタクマは戻ることにした。すると、戻るときはすんなりと海へと戻ることが出来た。
「…要するに、でられないということか」
一度冷静に言葉にしてしまえば、特にどうということはなかった。でられないならば、その原因を探ればいい。
タクマは再び砂浜を歩き始めた。
再び砂浜を歩き始めてしばらく。元いた場所から随分と離れたところで、また岩場が広がっていた。そこを、注意深く歩いていく。そうすると、その先にあるものをタクマは見つけた。
「…これは」
岩場の向こうには、やはり海が広がっていた。そして、その中が何故か光輝いていたのだ。
特に様子が向こうの海と違うということはない。しかし、その輝きだけは何か違う。
海水を手にとって見たが、特に何かが違うということはないらしい。
「……」
少しだけ考えて、タクマは上着を脱いで海へと飛び込んだ。
今の状態でスキューバを出来るわけではないが、素潜りは今までに何度も経験してきている。タクマはみるみるうちに海の底へと潜っていく。
少し海の底を泳げば、何故海面が輝いていたのかはすぐに分かった。何か、光の粒のようなものが海の中を舞っていたのだ。
不思議で幻想的な光景だった。水面から届く太陽の光がその粒子を輝かせ、そして海流がそれを舞わせる。まるでタクマの周りを囲むように輝くそれは、とてもこの世のものとは思えない。
そっと、その小さな粒子をタクマは手にとってみた。
(これは…)
それは、確かに陸で見たあの輝きと同じもの。海の中に舞っていたのは、砂の星だった。
(あの砂の星は、これと同じものなのか?)
それをまた海の中に戻しながら、タクマは一人考える。それならそれで、何故俺のところにそれが送られてきたのか?
分からないことが多すぎる。一度陸に戻ってからまた探ろうかと考え、タクマは水面に向かって泳ぎ始めた。
(…!?)
しかし、それは叶わなかった。泳げど泳げど、何故か海面は近づいてこない。それどころか、どんどん遠ざかっていくような感じがする。
よく見れば、あれだけいた魚たちの姿も一向に見えない。
何かが、ここはおかしい。
そう思った瞬間、タクマの周りで輝いていた星の砂が、さらに強い光を放つ。そして、同時にタクマの意識は遠のいていった――。
チリチリと、何かが自分の瞼を刺激する。微かな光に、タクマは目を覚ました。
「ここは…?」
声が響く。周りを見渡すと、どうやらそこは小さな洞窟のようだった。
あの時、意識を失う瞬間まではっきりと覚えていたタクマは、いきなり場所が変わっても特に混乱するということはなかった。
「今更何が起こっても不思議じゃないしな」
言ってしまえば、確かにそうだった。
そんなことをあらためて再確認して、タクマは一度首を鳴らす。特に、体のどこかに異常がでたということはない。
「あ、起きてる」
体を確かめる彼の後ろから声がかかり、タクマは魔皇の本能からか思わず身構えた。そこには、何処かで見たことのある一人の少女。
「わわっ、そんなに怖がらなくても」
眼光鋭く睨みつけるタクマに、洞窟にぽっかりと開いた海へと繋がるらしい穴から上半身だけ出した少女が慌てて手を振る。
「…お前は何だ?」
「あ、ボクは、えーと、なんて言ったらいいんだろ…」
あくまで警戒を解かないタクマに、少女は必死に言葉を捜す。
「えと…貴方の元に、多分星の砂の入った瓶が届いたと思うんだけど…」
少女のその言葉に、タクマは油断はせずに構えをといた。
「あれは、君の送ったものなのか?」
タクマの問いに、少女はただ頷く。
「何故、あれを俺に?」
「えーと…とりあえず、お話しよっか?」
何処から話せばいいか分からず、少女はとりあえず笑った。
「えとね。あれはこの海を元に戻せる人のところに届くように送ったものなの」
「海を、元に戻す?」
うんと、少女は小さく頷く。
「えーと…貴方がボクに手を振ってたこと、覚えてる?」
「タクマだ。…あぁ、あれは君だったのか」
そう言われて、ようやくタクマは思い出す。何処かで見たことのある少女だと思えば、あの時頭上で笑っていた人魚の少女だったのだ。
「で、それに何の関係が?」
「んー…どう言えばいいのかな。
…ねぇ、海が二つあるというのは、それは世界にとって異常だってことくらいは分かるよね?」
唐突に、少女は問いかけた。確かに、天と地に海があるというのは異常である以外の何でもない。タクマは小さく頷く。
「…この海がね、下にある海の上に現れたのは、寂しいからなの」
「…寂しい?」
少女の言いたいことがよく分からず、タクマは聞き返す。それに、少女はまた小さくうんと頷いた。
「ねぇ、下から見てるとき気付いた? この海に、ボク以外の生物が何もいなかったこと」
言われて、タクマは考えてみた。確かに、人魚である彼女はすぐに分かったが、しかしそれ以外の何かはいなかった。水面に光る魚も、海を泳いでいるはずの魚群も、何も。
「…確かにいなかったな」
答えるタクマに、少女は小さく寂しそうに笑った。
「実はね、この海は殆どの生命が死滅してしまった海なの。生きてるのはボクと、後は小さな微生物や珊瑚くらいで。
十年位前までは、普通に色々なものが暮らす母なる海だった。でも、色々な原因が重なって、その殆どが消えちゃったんだ。
ボクは最後の生き残り。他に人魚もいないから、ボクが死んだら本当にこの海からは生命は消えちゃう」
その寂しそうな笑顔は、あまりにも痛々しい。タクマは眉を細めそれを聞いていた。
「…海にだって、意思はあるの。魚たちが泳ぐのは海にとって何よりも楽しいことだし、海が怒れば嵐が起きたり海流の暴走が起こったりもする。
でも今は…海が喜びや怒り、悲しみを感じることも出来なくなった。海の中に住むものがいなくなったから。
そうなっちゃえば、海はもう死ぬしかなくなる。だからこの海は願ったの。思い出がほしいって」
「思い出…?」
「うん。もうボクたちが消えることは免れないからね。そうなれば、海は消える。最後の最後まで一人ぼっちなのは、海だって耐えられないくらいに寂しいの。
その想いはこうやって他の海の上に現れることを可能にした。それくらい強い想いを、この海は持っているから」
そこまで話して、少女は小さく息を吐いた。淡々と話す彼女も、どこか寂しそうだなとタクマは思う。
「だからね、ボクは海に思い出をくれるだろう人に手紙を送ったの。誰に届くは分からなかったけど、こうやってちゃんときてくれたし」
今までの寂しそうな顔は何処へいったのか、少女は元気に笑った。
「お願い、海に思い出をください。そうすれば、この海は元在るべき場所へ帰るから」
人魚の少女の、そして海の願いに、今度はタクマは小さく息を吐いた。そして、少し笑う。警戒の色は、もうなくなっていた。
「分かった、そういうことなら協力しよう。
…あぁ、海だけじゃなく、君にも思い出をあげられるように頑張ろう」
タクマのその言葉に、少女は最初驚き、そしてすぐに笑った。
「うん――!」
「君の名前、教えてもらってもいいかな?」
「ボクの名前? ボクはシアだよ。そっちの言葉で海を意味する言葉を書いてシアって呼ぶの」
「シアか…じゃあ、しっかりと思い出を作らせてあげるからな」
「うん♪」
元の、下に広がる海へは何時でも願えば帰ることも出来ると彼女は教えてくれた。
そして、タクマとシアと海の思い出作りがここから始まる――。
<To be Continude...>
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業・クラス/登場ゲーム】
w3e982/タクマ・リュウサキ/男/34/魔皇/神魔創世記アクスディアEXceed
へっぽこライターEEEです、メモリーノベルへの参加ありがとうございました。
何時もお世話になっています♪
さて、次回は本当の思い出作りをすることになります。
望めば家族へのお土産も(文章での形だけになりますが)持って帰ることも出来ます。
どんな思い出を望み、シアと海へ与えてくれるのでしょうか?
それを楽しみにしつつ、次回のプレイングを期待しています。